東京地方裁判所 昭和34年(ワ)2237号 判決 1964年1月24日
主文
1、被告は原告に対し別紙目録記載の建物部分を収去し、別紙目録記載の土地部分を明け渡さなければならない。
2、訴訟費用は被告の負担とする。
3、この判決は仮に執行することができる。
事実
別紙要約書中の記載のとおり。
理由
一、原告がその主張の別紙目録記載の土地部分(本件土地)を所有していることは当事者間に争がない。
二、被告は昭和二四年五月二一日原告から右土地を賃借したと抗弁するが、その抗弁事実を認めるのに足りる証拠はない。
すなわち、乙第一号証の七によれば、原告が右同日被告において本件土地を含む四六坪五合の土地を家屋建築用敷地として使用することを承諾したような記載はあるが、成立に争のない甲第一、第四号証、証人中島松吉(第一、第二回)平野左源司の各証言および原告本人尋問の結果によれば、訴外中島松吉は原告からかねて本件土地を含む数十坪の土地を賃借し、本件土地上に原告主張第一、第二建物を所有していたが、昭和二四年三月右第一建物とその敷地約一七坪分の借地権を被告に、第二建物とその敷地一〇坪内外の借地権を訴外島藤延造に譲渡し、同年五月初頃右第一建物を改築するに当り、その改築について原告の承諾を得ようとしたところ、原告はそれまで訴外島藤および被告とは深い交際もなく、かつとくに被告には日本人でないことから不安をもち、借地関係は依然として従前のとおり右第一、第二建物の敷地分については借地人を訴外中島とすることにし、ただ第一建物の敷地一七坪分のみについて、右訴外人の代理人として出向いた被告に第一建物改築承諾の旨を表示し、その趣旨で坪数の記載および使用権者の記載を空欄とした承諾書を被告に交付したところ、建築代理人において建物の坪数に合せ、実測をすることもなく適宜に坪数を四六坪五合と、使用権者を実際に工事施行主である被告と記入して右承諾書を補充したものであり、乙第一号証の七はそのようにして作成された右承諾書であることが認められ、したがつて、同書証は被告の抗弁事実を証する資料とはなし得ない。そして、証人中島松吉の証言(第一、第二回)および被告本人尋問の結果によつても、被告が、右認定のとおり借地権を譲り受けたことを原告が当時知つていたことを認め得るに止まり、また被告の抗弁事実はもとより被告および訴外島藤の借地権譲受ならびに被告の訴外島藤からの借地権譲受を承認した事実を認め得る供述はなく、他にもそのような証拠はない。
三、ところで、被告が原告主張の別紙目録記載の建物部分を所有して本件土地を占有していることは被告においてこれを認めているので、他に特別の占有権原について主張のない本件では、被告の右占有は原告に対抗し得ないことは明であり、右建物部分を収去して本件土地を原告に渡すべきは当然であるから、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、右認定の事実関係、本件紛争がすでに永年にわたつていることなどを考慮して無担保による仮執行許容を相当と認め、同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
要約書
(当事者の求める裁判)
一、原告の求める裁判
被告は原告に対し別紙目録記載の建物を収去し別紙目録記載の土地を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
二、被告の求める裁判
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
(当事者双方の主張)
第二、原告の主張
一、別紙目録記載の土地は原告の所有に属し、原告は訴外中島松吉に対し昭和二一年ごろから昭和二四年暮までの間右土地を含む六六坪の土地を賃料一ケ月一坪一〇円年二回払の約束で賃貸し右訴外中島は右土地上に家屋二戸(家屋番号東京都墨田区寺島町五九三番―以下第一建物とゆう、および家屋番号同町五九三番の三―以下第二建物とゆう)を所有していたが、昭和二四年三月右の第一建物を被告に、第二建物を訴外島藤延造に譲渡したものである。右第一建物は初め一〇坪(別紙図面CDHGC範囲内)であつたが昭和二四年八月ごろ被告は右訴外島藤の同意をえて第二建物の一部を取り込み、第一建物を一二・五坪(別紙図面CEIGC範囲内)に改造した。しかして右訴外島藤は昭和三〇年一〇月二二日右第二建物を被告に譲渡し、被告は右第一および第二建物を改造して一戸(別紙図面ABJGA範囲内の建物)とし、右訴外中島および島藤から右第一、第二建物各敷地部分の借地権を譲り受けたと称し、別紙目録記載土地上の同目録記載建物部分を所有し、同土地を占有している。
二、しかし原告は右建物敷地の賃借権の譲渡を承諾したことはない。それのみか、右建物二棟を被告らに譲渡した訴外中島は昭和二四年暮には全借地を原告に返地するに至つたものである。
三、よつて原告は被告に対し右建物部分を収去して右土地部分を明け渡すことを求める。
第二、被告の答弁および抗弁
一、別紙目録記載の土地が原告の所有に属すること、被告が別紙目録記載の建物部分を所有して右土地を占有していることは認める。
二、(一)被告は、昭和二四年五月二一日原告から、右土地を含む二八坪を普通建物所有を目的とし、地代坪当り一五円、年二回(六月、一二月)払の約束で賃借したものである。
(二)被告は当時訴外島藤から右第二建物を買い取る約束が出来ていたので、その敷地についても原告から賃借したのであるが原告が被告に対し同年一二月右借地買取方を求め被告がこれを拒絶したためか、昭和二五年一月被告を私文書偽造罪で告訴したので、被告は原告を刺激しないことにつとめ、訴外島藤から買い受けた右第二建物の登記手続を見合せ、右の事件が不起訴となつた後の昭和三〇年一二月二二日訴外島藤から右建物の所有権移転登記をうけたものである。
第三、原告の被告の抗弁に対する認否
原告が被告を告訴したこと、被告がその主張のような登記をしたことは認めるがその余は否認する。
別紙
書証
原告提出 被告の認否
甲第一号証(念書) 認
甲第二号証(内容証明郵便) 認
甲第三号証(借地協定調停申立書) 認
甲第四号証(メモ) 認
甲第五号証(図面) 認
甲第六号証の一(登記簿謄本) 認
同 二(同) 認
甲第八号証(内容証明郵便) 認
甲第九号証(ハガキ) 認
甲第一〇号証(登記簿謄本) 認
被告提出 原告の認否
乙第一号証の一(臨時建築制限規則による許可書) 認
同 二、三(営業許可書―写)原本の存在、成立 認
同 四ないし六(不動産売渡証―写)原本の存在、成立 認
同 七(承諾書―写)原本の存在 認
成立 不知
同八(委任状―写)原告の存在、成立 認
同 九ないし一一(臨時建築制限規則による許可―写)
原本の存在、成立 認
乙第二号証の一ないし八(供託書) 認
乙第三号証(内容証明郵便) 認
乙第四号証(預り証) 不知
乙第五号証(領収書) 認
乙第六号証の一、二(登記権利証) 認
人証
原告援用分 被告援用分
証人 中島松吉 証人 中島松吉(第一、第二回)
同 原沢雅雄 同 平野右源司
同 大野田勤 同 鴨川芳朗
原告 宇田川秀太郎 被告 呉忠剛
別紙目録
土地 東京都墨田区寺島町七丁目八〇番地
のうち別紙図面斜線部分二二、〇五五坪
建物 同番地所在別紙図面ABJGAの建物(家屋番号同町五九三番、五九三番の三)のうち別紙図面斜線部分二二、〇五
<省略>